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水中運動(含 水中歩行)

 全身の骨格筋が無理なくたくさん参加する運動をエアロビック運動といいます。この運動は、長時間にわたって酸素を体内に取り入れながら行うことから有酸素運動ともいわれています。運動種目としては体重移動することにより筋肉がたくさん使われる歩、走、水泳・水中運動、自転車、エアロビックダンスなどがあげられます。
 中でも水中運動は、水の持つ特性により安全に実施できるエアロビック運動(全身持久力の改善)であることは勿論、運動の方法によってはリラクゼーション(筋肉をリラックスさせる)や局所筋運動(必要以上の筋肉の衰えを予防する)を可能にする最も優れた健康づくり運動です。

水の特性

1 浮力

 人間の体重は、肩まで水に浸かった状態では浮力により陸上の約1/10に減少します。一般的にはこの浮力により体の一部分(特に膝や腰)に大きな負荷が加わらないことだけが水泳・水中運動の優れている点のようにいわれています。当然そのことも浮力のもたらす大切な効果ですがもう一点忘れてはならない大切な効果があります。陸上での運動は、常に重力に対して姿勢を保持しながら運動しなければなりません。このことは、直接その運動に必要な筋肉以外に常に緊張している筋肉が存在するということです。この筋肉のことを抗重力筋といいます。抗重力筋を必要以上に緊張させると身体のバランスが乱れ、肩こりや腰痛の原因となるのは勿論のこと、時には大きなストレスとなって心身に悪影響を及ぼします。
 しかし、水泳・水中運動は浮力により、運動に直接必要な筋肉以外をリラックスさせることができます。この浮力による効果は腰痛、膝痛、肩こりを改善したり、心身のストレスを取り除くことにより血圧を安定させる等図り知れないものがあります。
 運動中であっても、抗重力筋の緊張を取り除くことのできる唯一の運動が水中運動です。

2 水圧

 水圧とは水の持つ圧力のことで深さ1mの所では1平方センチあたり僅か100gですが、深さ10mにもなると1kgにも達します。この圧力は首までつかった程度ではほとんど影響はありませんが、それでも空気中と比べると高いといえます。
 水にもぐらなくても、肩まで浸かっているだけで、胸郭に対して適度に圧力をかけ呼吸筋を刺激します。
 水中運動が喘息や呼吸器系のリハビリテーションに優れていることはいうまでもありません。

3 水温

 健康づくりにおいては、単に身体を動かすための行動体力(筋力・瞬発力・敏捷性・全身持久力等)が向上すればよいという訳ではありません。暑さ・寒さに対する抵抗力や病気になりにくいといった身体を外敵な刺激から守る体力(防衛体力)とのバランスが大切です。
 特に、体温よりも低い水温では寒冷刺激を受け、体温調節機能が発達して、防衛体力の向上を促します。

4 抵抗

 水の抵抗は物体の形・向き・移動速度に関係する。物体の形・向きが同じであるならば抵抗は速度の2乗に比例します。この抵抗を上手に利用することができれば推進力を生みますが、時として泳力や技術の上達を妨げる原因ともなります。この水の抵抗は、他動的でなく自動的に速く動かせば動かすほどより大きな抵抗を得ることができます。
 抵抗を上手に利用して運動内容を工夫すれば局所筋運動としての効果も得ることができます。

3つの柱

 水泳・水中運動は正しく運動の条件を整えればエアロビック運動(全身持久力の改善)だけでなく、リラクゼーション(筋肉をリラックスさせる)や局所筋運動(必要以上の筋肉の衰えを予防する)としての効果も得ることができます。

1 リラクゼーション−水に体をまかせて浮く −
 心身がリラックスするように工夫する。
 特に筋肉を緊張させないように工夫する。

■ 泳げない人の場合

 水に対する恐怖心を取り除けるように個々の能力に合わせてジャグジーや浅いプールを利用したり浮輪、ビート板、ヘルパーなどの浮具を使用して水に体をまかせて浮く。

□ 泳げるの人場合
 背浮きをしたり、クロールまたは背泳ぎでリラックスして、水に漂うような気持ちで泳ぐ。

2 エアロビック運動−水の中で長く体を動かし続ける −
 15分〜30分程度運動の強さを一定に保って連続して運動する。
 40%〜70%HR予備−10拍(次項「運動の強さ」参照)程度で実施する。

■ 泳げない人の場合

 水中体操・水中歩行・ジョギング・ジャンプなどを個人の能力に合わせて組合わせ15分〜30分程度体を動かし続ける。

□ 泳力に優れている場合
 クロールまたは背泳ぎで15分〜30分程度泳ぎ続ける。

3 局所筋運動−水につかって短時間に一部の筋肉に刺激を与える −

 水の抵抗を使って、膝の曲げ伸ばし運動など30回以上は連続して実施できない程度に負荷をかけて筋肉を刺激する。

★ 泳力に関係なくウオーミング・アップの中またはクーリング・ダウンの前に取入れる。

 これらの運動は、週に1回でも運動効果は望めますが、出来れば週2回〜週3回を中心にすすめるのが望ましいといえます。

運動の強さ

 エアロビック運動として水泳・水中運動を実施する場合、運動の強さを間違えれば、単に運動効果を得ることができないだけでなく、場合によっては生死を左右することもあります。それだけに運動の強さは特に慎重に考えなければなりません。
 本来は血圧に重点を置いて運動の強さをコントロールすることが大切です。しかし、自動血圧計の普及により、運動の前後の測定は可能になりましたが、一般の方の運動中の血圧測定は不可能です。そこで
一般的な目安としては心拍数を用います。心拍数は、運動の強さに対応して上昇します。このことから、安全に運動を進めるには、生理的な要素である心拍数を用いて運動の強さをコントロールしていくことが最も一般的です。この運動時の目標となる心拍数のことを運動時目標心拍数といいます。

◇ 一般的なエアロビック運動時目標心拍数の求め方

目標心拍数=(最高心拍数−安静時心拍数)×%+安静時心拍数

  *小数点以下は切り捨てます
  最高心拍数 (拍/分)=220−年齢
  安静時心拍数(拍/分)=安静状態で測った心拍数
  %=0.4〜0.7(40%〜70%)

 速歩、ジョギングなどを実施する場合はこれでよいのですが、水泳・水中運動は陸上でのエアロビック運動に比べて低い心拍数で高い代謝を得ることができることから上記の一般的なエアロビック運動の目標心拍数より10拍/分程度低く設定しなければなりません。

◆ 健康水泳・水中運動時目標心拍数の求め方

目標心拍数=一般的なエアロビック運動時目標心拍数−10

 高齢者などにおいてこの計算を用いた場合、プールに入っただけですでに目標心拍数に達する場合が見られます。心拍数は運動強度を考えるうえで大切な要素ではありますが、このような場合は、血圧、自覚的な運動強度など他の要素とあわせて総合的に考える必要があります。

▼ エアロビック運動としての水泳・水中運動時目標心拍数の測り方

運動終了直後に15秒間測定して4倍(1分間に換算)して求める。
注) 降圧剤等を服用している場合は心拍数が上がらないので注意が必要です。

水中歩行のポイント

1 少ししっかり歩く

 運動の強さの項で水中運動は陸上での運動に比べて低い心拍数で高い代謝を得ることができると書きました。これは単位時間内のエネルギー消費量が高いことを意味します。このことにより水中歩行は減量効果がきわめて高い運動といわれていますが、これは陸上と同じように歩けると仮定しての理論上のものであり、実際に際しては陸上に比べて、歩行速度ははるかに遅くなります。それどころか浮力に身をまかせて抵抗をできるだけ受けないように歩けば消費エネルギー量はきわめて少なくなり、長時間運動をしても減量効果はほとんど望めなくなってしまいます。
 また、脂肪分解酵素であるリパーゼは体温が2度上昇したあたりで最も効率よく働きますが、水温がこの体温の上昇を抑えてしまいます。
 ですから、水中歩行時は体調に問題がなければ、ゆったりした動きにはまってしまわないように、少し前を歩いている自分自身を追いかけるようなイメージでしっかり歩くことが大切です。
 さらに、よりエネルギーを効率的に使うには手:足の割合を3:7程度使うことが大切です。足で身体を進めていくのではなく、手で水を捕らえて身体を進めていくようなイメージを持って歩くことが大切です。

2 前傾して、腿を上げて膝下を振り出し、足指をしっかり開き足裏全体でプールの底をとらえ、親指の付け根と膝の位置を意識して大またで歩く。

 水中歩行の基本的な歩き方は、安全に日常生活で衰えやすい筋肉を意識して歩くことです。「脊椎ストレッチウォーキング」時と考え方は同じです。ただ水の特性により変化を持たせる必要があります。

・ 前傾を保って歩く
 「脊椎ストレッチウォーキング」はどちらかといえば身体をまっすぐに立てるようにして歩きましたが、水中歩行では、水の抵抗により身体を立てると腰に負担がかかります。ゆえに背筋は伸ばすように意識しますが、速度にあわせて前傾角度を増すようにして歩くことが大切です。


写真1 前傾を保つ

・ 腿を上げて膝下を振り出して歩く
 陸上では「膝を軽く伸ばし、足先を引き上げ」という動作は水中では水の抵抗によりスムーズには行うことは出来ません。そこで、腿を少し高く引き上げることにより、少し後ろから足を前に運ぶ際の反動を使い膝下の振り出しを使います。このことにより、その衰えが転倒に大きく影響を及ぼすといわれている大腰筋、大腿四頭筋などを効率よく刺激します。また、スムーズに動作が行えるようになれば無理なく足首の背屈運動を促し、衰えやすい脚筋力を総合的に鍛えるとともに、可動域を改善します。


写真2 腿を上げて歩く

・ 足指をしっかり開き足裏全体でプールの底をとらえる
 陸上での歩行運動の際は、踵からの着地は重要なポイントです。水中歩行時にも踵からの着地をすすめている場合がありますがこれはあまり好ましいことではありません。浮力があるとは言うものの素足での踵からの着地は踵を痛めやすくするとともに、着地を不安定にして、滑りやすく、股関節障害などへのリスクが高くなります。振り出した脚を少し引き戻し、足指をしっかり開き足裏全体でプールの底をとらえるように意識してください。


写真3 足指をしっかり開き足裏全体で着地する

・ 親指の付け根と膝の位置を意識して歩く
 歩行時は水中、陸上にかかわらず、着地後一時的に小指側に体重が移動します。さらに水の持つ特性により身体が左右にふらつきがちになります。このことによりしっかり親指の付け根を意識しておかないと完全に小指側へ体重が移動して、膝を大きく外側に押し出します。正しいアライメントを意識しなくても、
水中では浮力の影響で膝や腰などの関節に過度な負担がかからず、比較的安全に運動することが出来ます。しかし、アライメントのずれは陸上での歩行運動の際に膝関節の状態を悪くしてしまいます。


写真4 膝の位置に注意して歩く

・ 大またで歩く
 そして、全体的に大またで歩くように意識してください。整形外科的障害に大きな問題がなければプールサイドを2から3回大またで歩いてみて、その歩数を目安に、水中では歩数が少なくなるように歩いてください。無理なく大またで歩くことは直接転倒予防につながる大腿四頭筋、大臀筋、大腰筋を効率よく刺激します。

3 陸上で出来ない動きを取り入れる
 水中歩行全体のプログラムの8から9割は以上のポイントを守って歩けば問題ありません。ただ最後の味付けとして、「陸上では安全に行うことが出来ないが、水中では安全に行うことの出来る動きを工夫して取り入れること」を意識してください。軽くスキップをしたり、ジャンプをしたり、走ったり、横歩きや後ろ歩きを取り入れたりすることにより、陸上での動きの自由度を高めます。

水泳上達のポイント

 健康づくり運動としては水中歩行を中心に行えば十分で、泳げなくても何も問題はありません。ただせっかくプールに入るのであれば泳ぎたい、泳げるようになりたいと思われる方もおられると思います。兵庫県立健康センター(平成16年3月廃止)の23年間での運動中の重大事故は5件(1件は死亡事故、4件は軽快回復)ありましたがすべて蜘蛛膜下出血で、運動種目は水泳、泳力が25m弱、中高年齢です。ゆえに中高年で水泳を始められる場合は、特に泳力が安定するまでは体調管理は勿論、過度の呼吸制限には十分注意して運動を進めてください。

1 リラックスすることを心掛ける
 人間は当然水中では呼吸ができない。さらに水圧により呼吸制限される。その上筋肉が過度に緊張していたのでは息継ぎの上達は考えられない。

2 意識的に緊張させる
 筋肉をリラックスさせることができなかったら、筋肉はエネルギーをたくさん使います。エネルギーをたくさん使おうとすると酸素がたくさん必要になります。そうすると息が苦しくなって長く泳げなくなります。こんな壁に遭遇したら、反対に意識的に筋肉を軽く緊張させてみましょう。
 リラックスさせることは緊張させることよりも難しいです。どうしてもリラックスできなかったら、反対に軽く筋肉を緊張させて泳いでみましょう。意識的な緊張は必ずリラックスを生みだします。水泳上達の秘訣はこれです。

3 「より早く」や「より速く」泳げるようになろうと思わない
 別に泳げなくても運動内容を工夫すれば、健康づくりの運動になります。もし、最も優れた健康づくりの運動である水泳が健康を害する原因となる可能性があるとすれば「より早く」や「より速く」の考え方が「健康づくりの概念」を無視して一人歩きし始めたときです。
 実際、健康水泳・水中運動時の重大事故の発生率は高くなってきています。過度の呼吸制限による脳血管疾患です。また、整形外科的障害の発生率も高くなってきています。
 特に、運動経験がほとんどない場合やまったく泳げないで中高齢になってから水泳を始める場合は、他人よりも「早く」上手になろうとか、「速く」泳げるようになろうとか思わないことが健康水泳・水中運動の上達の鍵です。

4 ゆっくり泳げるように練習する
 何事も速くなることの方が難しく思いがちですが、実際はゆっくりすることも同じだけ(実際はゆっくりの方が難しい)難しいといえます。速く泳げても、ゆっくり泳げない人は間違いなくヘタクソです。
 より速くが多くの危険性を伴うならば、まずはよりゆっくりを目指す方が優れていることはいうまでもありません。まして、減量を考えるならば「ゆっくり、長く」の方が脂肪の燃焼効果には優れています。

5 身体を滑り込ませる
 水泳の推進力はおもに抵抗、反作用、慣性によってもたらされます。しかし、直接の推進力としてはあまり大きくありませんがもう一つ非常に大切な要素があります。水と身体にズレを作って体を滑り込ませるということです。
 下敷きのようなもので浮くものと沈むものを用意して、浮くものは水に沈めて、沈むものは浮かべて手を離してみましょう。この物体は絶対に真っ直ぐに浮んだり沈んだりはしません。必ず斜めに傾いて水との間にズレを作って移動します。
 実際水泳はこのズレを巧みにとらえ、身体を水に滑り込ませて加速した時点で手をかいたり、キックして、水を押さえ、更に加速した段階で動きの方向を変えて新たなズレをとらえていきます。このスムーズなくり返しがより効率的な推進力を生むことにつながります。
 中級者と上級者の決定的な違いはここにあるといっても過言ではありません。

6 左右のバランスに気をつける
 健康づくりの運動はバランス回復運動ともいえます。
 身体のバランスに限定して考えるならば、上下、前後、左右のバランスが大切になります。しかし、一般的には水泳の場合は陸上での運動に比べて上下、前後のバランスを意識することは難しいといえます。勿論これらを意識して運動を進めることができればいうことはありませんが、せめてクロールの息つぎの際の左右のバランスだけは常に意識して泳ぎたいものです。

人間は陸上で生きている

 水泳・水中運動の長所を捉えて話しを進めてきました。しかし、最後にこの水泳・水中運動の長所こそ、最大の短所であることにも触れておきます。
 骨を強くしたり、骨の老化を押さえるには重力に対して姿勢を保持しながらの運動が必要になります。また、転倒や事故から身を守るには、大きな力やすばやい動きも必要になります。人間は基本的には陸上で重力に対して姿勢を保持しながら生活しているというあたりまえのことを忘れてはなりません。
 我々は水上や水中で生活するために水泳・水中運動を行なっているのではありません。陸上でより健康的な人生を送るために行なっているのです。水泳・水中運動で得た運動効果を陸上で生かしていくためには、陸上での運動が不可欠です。陸上での運動を意識しない健康づくり水泳・水中運動は存在しません。

(亀澤)


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