本来、個人個人の余裕力に応じた運動強度を正しく設定するには、最大値を正しく求める必要があります。しかし、当然のことながら、最大値を正しく求めるには危険を伴います。そこで、近年、有酸素運動(Aerobic exercise)においては、最大下で正しく運動強度を設定するひとつの指標としてATと呼ばれるものが注目されています。
ATとは Anaerobic Threshold の略で無酸素性作業閾値あるいは乳酸閾値のことをいいます。
人間が筋肉を動かすのに必要なエネルギー供給過程には、酸素を必要としない無酸素過程と酸素を必要とする有酸素過程があります。無酸素過程にはさらに完全な分解過程であるATP−CP系と不完全な分解過程である乳酸系があります。ATP−CP系は極めてその量が少なく、乳酸系は不完全な分解過程であるため、無酸素の状態でエネルギー供給が続くと乳酸という疲労物質を蓄積し続けます。そして、やがてエネルギーの供給が止まって筋肉を動かし続けることが出来なくなってしまいます。
運動強度が低い間はエネルギーのほとんどすべてを有酸素過程により供給します。しかし、ある一定の水準まで運動強度が上がると無酸素過程をも動員してエネルギーの供給を続けます。その結果、上記の乳酸系の不完全な分解過程により、血中の乳酸値が急に上昇を始めます。この変移点のことをATといいます。
ATを正しく測定するためには、漸増運動中に反復して採血して乳酸分析する必要があり、非常に大掛かりな検査になります。そこで、多くの場合において血中乳酸の増加とほぼ同時点で換気量の増加が急激に加速されるという結果から、乳酸値の測定に比べて比較的測定の簡単な換気量の測定による変移点をATの非浸襲方法による指標として利用することもあります。これを Ventiratory Threshold(換気閾値)といいます。
ATより低い運動強度では、ほぼ完全な有酸素運動であることから、ATを有酸素運動の運動強度の上限とすればよいという考え方が生まれます。しかし、実際の運動に際しては、ATを多少越えて血中乳酸値が上昇する運動強度であっても、安全上ほとんど支障はないと考えられます。そこで一般的には高齢者や初心者はATを上限値として、若い人や運動経験者はATを若干上回る強度まで許容してもよいと考えられています。