人間が運動をする際の筋肉へのエネルギーの供給過程には、ATP−CP系および乳酸性機構と呼ばれる酸素を必要としない無酸素性過程と酸素を必要とする有酸素性過程があります。かなり専門的な内容になりますので、少し噛み砕いて考えてみましょう。(少々不適切な表現もありますがお許しを!)
エネルギー供給過程を親会社と子会社1、2、3例えて話しを進めます。
人間が筋肉を動かす際のエネルギーは親会社がアデノシン三燐酸(ATP)という物質をアデノシン二燐酸(ADP)と燐酸(P)に分解する際のエネルギーで供給します。筋肉はこのATPがADPとPに分解する際のエネルギーでないと絶対に動きません。ATPは親会社が保有していますが、その貯蔵量がきわめて少なく、激しい運動においては約2秒程度しかエネルギーを供給できません。そこでADPとPを再びATPに再合成することによって筋肉にエネルギーを送り続けます。
このATPの再合成は親会社内に工場を持つ子会社1と外に工場を持つ子会社2、の計3つの会社が受け持っています。
1の子会社はクレアチン燐酸(CP)という原材料をクレアチン(C)と燐酸(P)に分解する際のエネルギーでATP再合成を行います。この子会社は親会社内にあるためにその仕事は早いのですが、クレアチンという原材料に限りがあり、親会社に最初からあるATP分解のエネルギーと合わせても8秒程度しか供給できません。この供給過程のことをATP−CP系といいます。
2の子会社は、グリコーゲンという原材料を分解して供給します。この分解過程は不完全であるため乳酸という産業廃棄物を作り出してしまいます。この子会社は比較的原材料がたくさんあり、仕事も早いのですが、酸素の力を借りずに仕事を続けると産業廃棄物(乳酸)が一杯になって約33秒でエネルギーを供給することができなくなります。この供給過程のことを乳酸性機構といいます。
1と2の子会社の仕事は酸素を必要としないので無酸素性過程といい、酸素なしで筋肉にエネルギーを供給できるのは約41秒(8秒+33秒)ということになります。
3の子会社は、運送会社が運んでくる酸素の力を借りて、グリコーゲンや脂肪そして2の子会社で出来た乳酸さえも取り込み分解してATP再合成のエネルギーを供給します。この会社の原材料はほぼ無限といってもよいほどあり、理論的には無制限に近い状態でエネルギーを供給できます。しかし、仕事が遅く、運送会社が運んでくる酸素が遅れるとエネルギーを供給できなくなります。この酸素を必要とする過程のことを有酸素性過程といいます。
ほんの一握りの競技スポーツを除いて、人間の運動や日常生活活動は無酸素(約41秒以内)で終わることはありません。そこで3の子会社(有酸素過程)の仕事の善し悪しがその人の作業能力を決定するといっても過言ではありません。3の子会社(有酸素過程)の仕事は酸素を供給する運送会社、すなわち呼吸循環器系の能力できまります。そして、ある一定レベルまで酸素を取り込む能力が低下すると著しく作業能力が低下し、生活習慣病の発症率が高くなることから「健康づくりのための運動基準2006」においても最大酸素摂取量の基準値を示しています。また、最大酸素摂取量を維持するためにはある程度の運動の強さを必要とすることから「エクササイズガイド2006」では少し遠まわしですが「週23EXの活発な身体活動!そのうち4EXは活発な運動を!」と目標を設定しています。
運動の目的が健康づくりであっても、競技力向上であっても人間が常に基本として考えなければならない運動は呼吸循環機能の維持増進を目的としたエアロビック運動(歩行、速歩、ジョギング、水泳、自転車等)です。