人間は地球上で生活する以上、常に重力の影響を受けます。この重力に対して姿勢を保持するために直接は運動に関与していなくても、緊張を余儀なくされる筋肉があります。この筋肉のことを抗重力筋といいます。抗重力筋の一部の衰えや発達、過度の疲労といったバランスの崩れは、腰痛や肩こり、けがや障害を引き起こしたり、運動能力や技術の伸び悩みや低下を招きます。
人間は左右に身体を動かしたりもしますが、身体動作のほとんどは前後の動きが中心になります。そこで前後の動きに限定して抗重力筋のバランスについて説明します。
上図をご覧ください。図は代表的な抗重力筋を表わしています。大切な頭を支える僧帽筋以外の筋肉は前後の筋肉の拮抗した動きにより、姿勢を保持したり、身体を動かすことができます。大胸筋に対して広背筋、腹直筋に対して脊柱起立筋、大腿四頭筋に対して大腿二頭筋、前脛骨筋に対して下腿三頭筋です。この拮抗した筋肉のバランスをとることが大切です。ところがこの拮抗した筋肉は必ず一方がよく使われて疲れやすく、他方はあまり使われず衰えやすくなっています。
たとえば、腹直筋と脊柱起立筋の関係でいえば、一般的には脊柱起立筋がよく使われ疲れやすく、腹直筋はあまり使われず衰えやすくなっています。そして脊柱起立筋が過度に緊張し、腹直筋が衰えると、腰椎が前に押し出されやすくなり、腰痛を引き起こしやすくなります。これを予防するために脊柱起立筋のリラックスと腹直筋の強化が大切になります。腰痛予防には腰痛予防体操と腹筋運動となるわけです。
同様に前脛骨筋と下腿三頭筋の関係においては前脛骨筋が衰えやすく、下腿三頭筋が緊張しやすく、このバランスが過度に崩れると足首が返りにくくなり転倒しやすくなります。そこで前脛骨筋の強化と下腿三頭筋のリラックスがポイントになります。
大腿四頭筋と大腿二頭筋の関係においては年齢や運動内容によって大きく異なり、一概にどちらの方がよく使われたり、衰えやすいということはできませんが、高齢者においては大腿四頭筋の筋力の低下が著しく転倒へのリスクが高くなります。
大胸筋と広背筋の関係においては大胸筋が緊張しやすく、広背筋が衰えやすく、大胸筋のリラックスと広背筋の強化がポイントになります。この部位のバランスの乱れは肩の前後の動きに大きく影響するため肩こりを引き起こしたり、肩甲骨下部を痛めやすくなります。
重力に対して姿勢を保持する抗重力筋に対して、そのすべてを強化し、リラックスさせることは非常に大切です。しかし、運動のポイントとしては疲れやすい抗重力筋に対してストレッチ運動などによりリラックスを心掛け、衰えやすい抗重力筋に対して局所筋運動などにより強化を図る工夫が必要です。
抗重力筋に対する適切な運動は、人間にとって最低必要なコンディショニングです。