筋肉の性質
筋肉の性質を理解すれば、ストレッチ運動の大切さも理解することができます。そこで、まず簡単に筋肉の性質について考えてみましょう。
□ 筋肉は収縮(短縮)する際に力を出す。
筋肉は基本的には一方向にしか力を出しません。伸びた状態から短縮する際に力を出します。もしその筋肉が一見伸ばされながら力を出しているように見えるならば、多くの場合は、実際には、その筋肉と拮抗している筋肉(反対側で相反する動きをする筋肉)が収縮(短縮)しながら力を出しいます。
□ よく使う筋肉はよく疲れる。
よく使う筋肉は伸ばしておいておかないと、疲れて収縮(短縮)したままになります。筋肉は基本的には収縮(短縮)する際に力を出すので、収縮(短縮)したままにしておくと動きの範囲が狭くなり力が出なくなります。また、このことにより姿勢が悪くなるなど、体の筋肉バランスを悪くしていきます。
□ 収縮(短縮)したままの筋肉は怪我や障害を起こしやすい。
当然のことですが、疲労して収縮(短縮)したままになった筋肉は動きに対する反応が悪くなります。急激に引き伸ばされると肉離れや腱、靱帯に損傷を起こしやすくなります。
抗重力筋
では、最も疲労しやすく収縮したままになりやすい筋肉、すなわち日常最もよく使う筋肉はどの筋肉でしょうか?
人間は地球上で生活している以上重力に対して姿勢を保持する必要があります。この重力に対して姿勢を保持するために働く筋肉のことを抗重力筋といいます。その代表的な筋肉が「下腿前部(前脛骨筋)」「下腿後部(下腿三等筋)」「大腿前部(大腿四頭筋)」「大腿後部(大腿二頭筋)」「下背部(脊柱起立筋)」「腹部(腹直筋)」「胸部(大胸筋)」「上背部(広背筋)」「首(僧帽筋)」の筋肉です。
そして、この抗重力筋の中でも特に疲労しやすい筋肉が、「下腿後部」「大腿前部」「大腿後部」「下背部」「胸部」「首」の筋肉です。この特に疲労しやすい筋肉を中心にストレッチ運動を行うことが地球上で生活している人間にとって最低必要な運動であるといえます。
抗重力筋のバランスの乱れは慢性の肩こりや腰痛を引き起こします。また、ときとして重大な怪我や障害を引き起こすことになります。
ストレッチ運動の必要性
◇ 転倒
足先を手前に引きつける筋肉は向こう脛の筋肉(前脛骨筋)で、反対に足先を外へ押し出す筋肉はふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)です。どちらの筋肉も疲労しやすい筋肉です。しかし、人間は歩いたり、走ったり、跳んだりする際に非常に大きな力を必要とするため元々ふくらはぎの筋肉の方がはるかに大きくできています。つまりふくらはぎの筋肉を時々伸ばしておいてやらないと、短縮したままになってしまって絶対量に劣る向こう脛の筋肉が伸ばされ、足先が返らなくなります。若いときには自然に返っていた足首が加齢とともに返らなくなり、歩いていてもつまづきやすくなり、転倒しやすくなります。
また、足首の返りが悪くなると、その影響で膝が外に押し出されやすくなり、膝関節障害を引き起こしやすい状態を引き起こし、さらに転倒への危険性を高めてしまいます。
特に、年を取ってからの転倒は骨折を引き起こし寝たきりになる可能性を高くします。
◇ 腰痛
病的なものを除いた一般的な腰痛は、腰椎の前彎が増すことが原因で引き起こされるといわれています。骨盤と大腿骨の間の筋肉、下背部の筋肉、胸の筋肉が疲労して短縮すると腰椎を前へ前へと押し出す結果になります。特に骨盤と大腿骨の間の筋肉と下背部の筋肉の疲労は直接腰椎を前へ押しだし腰痛の直接の原因となります。
腰痛はストレッチ運動で予防することができます。
◇ アキレス腱断裂
ふくらはぎの筋肉の疲労は、ときにはアキレス腱断裂を引き起こしたりもします。
短縮したままのふくらはぎの筋肉で、底の平らな靴を履いてバドミントンやバレーボールなど(特に後ろに下がりながら踏ん張る動作)をすれば筋肉が急激に引き伸ばされて、アキレス腱に大きな力が加わります。激しい運動で強く踏ん張ったわけでもないのにアキレス腱が切れます。3週間の入院、3ヶ月のギプス、バランスよく歩けるようになるのに1年ぐらいかかります。さらに悪いことには、精神的なショックが大きく以後の運動を大きく制限されることになります。
ストレッチ運動の不足によるトラブルについてさらにもう少し具体的に考えてみましょう。
▽ デスク・ワークを中心に仕事している人
机に座って仕事をしていても重力の影響は受けます。特に首、肩、腰の筋肉は疲労しやすい筋肉です。さらに手を動かす範囲はほとんどが肩の線よりも前で、下でしか動かしません。そのままにしておくと手は上がらなくなり、背中は丸くなります。また、長い間の筋肉への疲労の蓄積が40肩、50肩となって現れたり、慢性の腰痛の原因となります。
▽ ゴルフ、テニスなどのスイング系のスポーツをしている人
腰のひねりを必要とするスイング系のスポーツは同一方向に大きな負荷が加わるため背骨を痛めやすいスポーツといえます。その負荷を軽減し、背骨を守っているのが腹の筋肉と背中の筋肉です。この筋肉を同一方向にしか動かさなければ当然からだのバランスは崩れ腰痛を引き起こします。
▽ かかとの高い靴や固い靴を履いて仕事をしている人
転倒、アキレス腱断裂のところでも触れましたが、ふくらはぎの筋肉は疲労しやすい筋肉だといえます。普段、その疲労しやすい筋肉をさらに短縮させたまま固定することになるかかとの高い靴や底の固い靴を履いて仕事をしていて、休日にろくに準備体操もしないで運動をすれば簡単にアキレス腱を切っても不思議ではありません。
▽ ジョギングをしている人
重力に対して姿勢を保持しながらおこなうジョギングでは抗重力筋への負担がさらに大きくなります。特に腰痛のところで触れた脚部、下背部、胸部に対する負担は大きく、中でも下背が過度に緊張すると腰痛を引き起こします。ジョガーやランナーに腰痛が多い理由はここにあります。いい替えるとジョギングを行なえば行なうほどストレッチ体操を実施しなければならないといえます。このことは、ジョギングだけでなく下背を過度に緊張させる運動(立った姿勢で行なうウエイト・トレーニング種目など)でも同様のことがいえます。
運動しなくてもストレッチ運動は必要です。そして、運動すればするほどさらにストレッチ運動が必要となることが理解できたと思います。
ストレッチ運動の効果
☆ 筋肉のこりがほぐれリラックスして、身体が楽になる。
☆ 眠っていた筋肉が目覚め血行がよくなる。
☆ 身体のバランスがよくなる。
☆ 怪我の予防に優れている。
☆ 筋力の低下を防ぐ。
☆ 心身のリラックスを図り、運動後の疲れを早く取り除く。
などの効果あります。
ストレッチ運動の種類
○ 徒手体操
ラジオ体操に代表される徒手体操は、日常生活であまり身体を動かさない方向にも身体を動かして筋肉を伸ばして、関節の可動域を広げます。また、筋肉を軽く動かすことによって身体を目覚めさせたり、反対に安静状態に戻したり、疲労を早く取り除くなどの効果があります。
○ ストレッチ体操
ストレッチ体操には大きく分けて次の4つの方法があります。それぞれ長所、短所を持っており、どの方法が最も優れているということはありません。状況に応じて上手に使い分けることが大切です。
・ 弾性ストレッチング
1970年代くらいまで柔軟体操といえばほとんどこのストレッチ体操のことをいいました。反動を用いたストレッチ体操のことで、柔軟性の永続的効果は少なく、無理をすると筋繊維の裂傷を引き起こす危険性が高いので健康づくりのストレッチ体操としてはあまり望ましいとはいえません。しかし、筋温の上昇を目的としたり、主運動のためのウォーミング・アップとして実施する場合や筋肉のコンディションの調整には大変重要な役割を持っています。
・ 能動的ストレッチング
現在、一般的に静的ストレッチ、またはストレッチングと呼ばれている体操で、健康づくりを考える上で、最も基本となる体操です。反動を使わないでゆっくりと筋肉を伸ばしていく方法で、柔軟性の永続的効果は長く、弾性ストレッチングよりも筋肉はよく伸ばされます。
・ 受動的ストレッチング
能動的ストレッチングを更に外力の力を借りてより効果的に柔軟性を改善するストレッチ体操です。パートナーの力を借りたり、壁やろくぼくなどを使って筋肉をゆっくり伸展させます。受動的ストレッチングは、関節の可動域をより大きくすることができ、能動的ストレッチングよりさらに効果的です。
しかし、パートナーの力を借りる場合はある程度の熟練した技術が必要です。
・ 収縮・弛緩ストレッチング
パートナーの力を借りて緊張とリラックスを繰り返すことによって柔軟性を改善します。「PNFストレッチ」(Proprioceptive Neuromuscular Facilitating)とも呼ばれ、理学療法士が筋損傷患者の筋力低下を防ぐときなどに用いられてきました。
4種類のストレッチ体操の中では最も優れており、近年プロスポーツなどでよく用いられるようになって有名になりました。
しかし、パートナーの熟練した手技が必要で一般的とはいえません。
ストレッチ運動の方法
▼ ストレッチ運動自体を主運動として実施する場合
1 小さな筋肉から大きな筋肉へ順番に行ないます。
2 拮抗筋(特に身体の前面と後面の関係)を意識して行ないます。
3 左右のバランスに気をつけて行ないます。
4 同じ筋群を何回か繰り返してストレッチします。
▼ 準備運動で実施する場合
1 徒手体操、歩行、速歩、ジョギングを組み合わせて軽く筋肉を暖めてから能動的ストレッチングを行ないます。
2 能動的ストレッチングを入念に行なってから、主運動に必要な弾性ストレッチングや徒手体操を軽く行ないます。
3 主運動に必要な特殊ウォーミング・アップ(たとえばジョギングを主運動として行なう場合に軽くももを上げたり、スキップをしたり、軽くジャンプする)を行ないます。
▼ 整理運動で実施する場合
1 主運動の運動強度を徐々に落としてから、徒手体操、弾性ストレッチングを行ないます。
2 体が冷えすぎないように注意して能動的ストレッチングを入念に行ないます。
注) 発汗の激しい場合は着替えてから行ないます。
▼ 仕事の合間などに短時間に実施する場合
1 日常生活の中で習慣化して行ないます。
2 普段から疲れやすい筋肉を知っておきます。
3 2から3種目をシリーズにして覚えておきます。
ストレッチ運動を大切にしない身体活動は存在しない