局所筋運動とは
エアロビック運動は、筋肉への刺激を低く押さえ、全体の筋肉の動員量を多くして長く運動することにより、呼吸循環器系を鍛える運動です。
これに対して局所筋運動は、使用する筋肉を出来るだけ限定して、筋肉に対する刺激を大きくすることにより筋肉そのものを鍛えたり、筋肉の形をよくする運動です。一般的には重量物や自重(自分の体重)すなわちウェイトを用いることからウェイト・トレーニング。筋力をつけることから筋力トレーニング。最近では略して筋トレなどとといわれています。
局所筋運動の5つの基本
局所筋運動の5つの基本を考えれば、その大切さだけでなく運動種目の選択、実施方法等にいたるまで理解することができます。この5つの基本は健康づくり運動だけでなく競技力向上を目的としている場合においても最も大切な考え方です。
基本1 人間は重力に対して姿勢を保持している
人間は運動を実施しているしていないにかかわらず重力の影響を受けています。この重力に対して姿勢を保持するために緊張している筋肉のことを抗重力筋といいます。当然のことですが重力に対して姿勢を保持する筋肉をしっかりさせておかなければ、地球上での快適な生活や運動は考えられません。
重力の影響を最も受けやすい筋肉への刺激をおろそかにしたウェイト・トレーニングは存在しません。
基本2 筋肉は収縮する際に力を出し、よく鍛えた筋肉は強い収縮力を持つ
筋肉は基本的には一方向にしか力を出しません。伸びた状態から収縮する際に力を出します。もしその筋肉が伸ばされながら力を出しているように見えるならば、実際には、ほとんどの場合、その筋肉と拮抗している筋肉(反対側で相反する動きをする筋肉)が収縮しながら力を出しています。この拮抗している筋肉のバランスを考えずに運動すれば、一方向の収縮力が強くなりすぎたり、反対に弱くなりすぎて、単に運動効果が望めないだけでなく故障や怪我の直接の原因となります。
胸の筋肉ばかり鍛えれば、背中や肩を痛めやすくなります。
基本3 人間の身体の筋肉は下半身に全体の約2/3が集まっている
人間は全身の筋肉量の約2/3が下半身に集まっています。このことはもし現在身体のバランスがとれているとするならば運動時間や質、量的要素などすべての面において上半身と下半身の運動の割合は1:2でなければならないといえます。ところが、胸の筋肉や上腕二頭筋(力コブを作る筋肉)などは比較的簡単に刺激することができ、筋肉を太くさせることができます。反対に下半身は上半身と比較すると運動効果が現れにくく(正しくトレーニングできればそんなことはないが)興味を失いやすいといえます。その結果、上半身のトレーニングばかり行い、大切な下半身への刺激をおろそかにして身体のバランスを悪くしていきます。
若年層に下半身のトレーニングをおろそかにする人が多いのは残念です。
基本4 人間の身体動作は必ず大きな筋肉がゆっくり動くことから始まる
人間の身体動作は必ず大きな筋肉がゆっくり動くことから始まります。そして、加速した段階で中位の筋肉が動きだし、さらに加速した段階で小さな筋肉が動き、より小さな筋肉へと移っていきます。その結果、末端を最も速く動かすことが可能となります。このことはもし現在筋力のバランスが大きく崩れていなければ大きな筋肉から小さな筋肉へと順番にトレーニングを進める必要があることを意味します。小さなピラミッドを大きくするのに上から積んでいく人はいませんが、ウェイト・トレーニングの場合は小さな筋肉から鍛えていく間違いを犯す人が意外に多くみられます。
しかし、一部分の筋肉が他の筋肉よりも発達しすぎていたり、弱すぎると力が末端にスムーズに伝えられないだけでなく障害の原因となります。しなやかなムチの一部分に固い所があるようなもので、このムチを振りつづけると当然その固い所の境目が痛んできます。このような場合は全体よりも弱い部分の筋肉の強化を図りバランスを整える必要があります。
基本5 筋肉に栄養を運んだり、筋肉の疲労を取り除くのは呼吸循環器系の力
筋肉に刺激さえ与えていれば筋肉はしっかりして大きな力を発揮するようになると思いがちですがそんなことはありません。筋肉を作る蛋白質を運んだり、トレーニングによって生じた疲労物質をすばやく取り除くのは呼吸循環器系の力です。呼吸循環器系の能力の向上、すなわちエアロビック運動を無視したウェイト・トレーニングは存在しません。
基本となる部位と運動
局所筋運動の5つの基本こそ基本種目を決定する要素でもあります。ここではとりあえず5つめの呼吸循環器系は、エアロビック運動の項を参照いただくとして、局所筋運動の部位と運動について考えてみましょう。
ウェイト・トレーニングの5つの基本の1〜4の要素を満たす最小限の部位が図の筋肉です。さらにこれらの部位の中でも、下腿前部(前脛骨筋)、大腿前部(大腿四頭筋)、大腿後部(大腿二頭筋)、腹部(腹直筋)、上背部(広背筋)は、非常に衰えやすい筋肉です。
ここまでの話しでウェイト・トレーニングのポイントは抗重力筋、拮抗筋、大筋群、下半身であることは十分理解できたと思います。これらを整理して運動を進めることが大切です。
□ あなたがもし現在今までに触れてきたことを十分意識してトレーニングされているならばもう一点次のことにも気をつけて下さい。
肩を中心とした上半身は非常に複雑な動きをします。その動きの中で最も不足がちになる運動が肩を後ろにしっかり引く上背の運動です。上背の運動は、物を身体に向かって引っ張ってくる運動が中心となります。上げてしまえば動作が終了する押し上げる運動とは異なり1つの動作を正確に行うこと(しっかり引っ張りきること)が非常に難しい運動です。日常生活活動においては圧倒的に前かがみの状態が長く、上背の筋力は衰え背中は丸くなります。その上、トレーニングを行っている人の中で、押し上げる運動ばかり行ったり、中途半端な(しっかり引っ張りきらない)トレーニングを行っている人が多いのが上背の運動です。その結果トレーニングをおろそかにすると、単に運動効果が望めないだけでなく動きの範囲を狭くしていくことになり、肩甲骨下部を痛めたり、腰痛や肩こりを引き起こしたり悪化させる直接の原因となります。
運動をしていない人にとって大切な運動であることはいうまでもありませんが、運動を進めている熟練者においてもプログラム作成上軽視したり、運動実践に際し誤った運動に陥りやすいのが上背の運動です。
局所筋運動の基本的な進め方
□ コンディショニングを目的とした場合
筋肉に軽い緊張を与えることによって、反対にリラックスを生み出し身体の動きを整えることを目的としたトレーニングです。ウォーミング・アップやウォーム・ダウンにも用います。また、ダンベル体操に代表されるように基礎代謝の低下を防いだりプロポーションを整えたりする効果もあります。
□ 筋力の維持を目的とした場合
筋肉に適度な刺激を与えることによって、筋力そのものの低下を防ぐことを目的としたトレーニングです。前項の局所筋運動の基本種目を中心にプログラムすることが大切です。
□ 筋力の増進を目的とした局所筋運動
筋肉に強い刺激を与え、リハビリテーションや特に弱い部位の強化及び全身の筋力の増進を目的とした局所筋運動です。リハビリテーションを目的とする場合や特に弱い部位の強化を目的とする場合は第一に考えなければならない非常に大切なトレーニングといえます。
全身の筋力の増進を目的とした場合は異なる部位を同じようにトレーニングすることが大切ではなく、ウェイト・トレーニングの5つの基本を押さえた上で、部位に応じて負荷、実施回数やset数を変えることによってバランスの取れた全身の筋力の増進につながるプログラムを作成する必要があります。
筋力の維持を目的とした局所筋運動を行う場合は必ずコンディショニングを目的とした局所筋運動と組み合わせて、筋力の増進を目的とした局所筋運動を行う場合は、コンディショニングを目的とした局所筋運動と筋力の維持を目的とした局所筋運動を組み合わせてプログラムすることが大切です。
他の運動との関係
個人個人によって局所筋運動の目的は異なります。しかし、ごく一部のボディー・ビルディングだけを目指している人を除けばすべての人に共通していることがあります。運動本来の目的が自らの身体を巧みに動かすことにあるということです。局所筋運動は一般的にはダンベル、バーベルやマシーンを用いてトレーニングを行ないますが、あくまでもこれらを利用するのであって、利用されてはなりません。一例ですが100kgの物を持ち上げることが出来るようになることが大切ではなく、100kgの物を持ち上げることの出来る力を巧みに操れるようになることが大切です。運動の目的が健康づくりであろうと競技力向上であろうと、我々は自分の身体を上手に動かすボディーコントロールを目的としてトレーニングしていることを忘れてはなりません。
また、もし抵抗が0の秤があれば両方の天秤に同じ重さの物さえ乗せていれば10トンであろうと、千トンであろうと∞の重さであろうと力はいらず、指1本で動かすことができます。身体を上手に動かすということだけを考えれば筋力はほとんど必要ありません。健康づくりにおいても競技力向上においても筋力を高めるという考え方よりは、まず身体の中の抵抗を取り除きバランスを整えるという考え方の方が大切です。スポーツにおける初心者と上級者の決定的な違いは、初心者はその運動に直接必要でない筋肉が緊張するということです。上級者ほどその運動に直接必要な筋肉だけを緊張させることができます。このことは単に無駄な動きが少なく疲れにくいというだけでなく、リラックスと緊張の差を大きくとることができます。上級者は、初心者と同じ筋力であっても実際の動きの中で大きな力を発揮することができます。
以上のことから、ただ単に筋力の最大値を求めるよりも、リラックスを心掛けることの方がより大切であることはいうまでもありません。また、局所筋運動での疲労を早く取り除き、運動効果を上げるために、最初の項で触れました5つの基本の呼吸循環器系の能力すなわちエアロビック運動も非常に大切です。
ストレッチ運動、エアロビック運動を正しく理解して実践してこそ初めて局所筋運動の効果を正しく引き出すことができます。
求めるもの
ダンベル、バーベルやマシーンを巧みに操り、最大筋力の絶対値を追い求めることが筋力の向上ではありません。ホディーコントロールすなわち、実際の動きの中で筋肉の緊張とリラックスを巧みに使い分けられる能力を養うことこそ本質的な筋力の向上であり我々がウェイト・トレーニングに求めるものです。